クロストーク

共創シンポジウム「〜森から考える、次世代へ繋ぐ木の豊かな未来〜」 イベントレポート_Session2・Session3

>Session1のつづき

案内者

  • 森本達郎氏(森庄銘木産業株式会社 取締役専務)

    森本達郎氏

    森庄銘木産業株式会社
    取締役専務

  • 森本優子氏(森庄銘木産業株式会社/森と学び事業部部長)

    森本優子氏

    森庄銘木産業株式会社
    森と学び事業部部長

  • 長野麻子氏(株式会社モリアゲ/代表取締役)

    長野麻子氏

    株式会社モリアゲ
    代表取締役

[ Session2/森ツアー in 宇陀市榛原 鳥見山 ]間伐を通して「木の物語」を体感する。

———[Session2]の舞台は、VUTAIから車で15分ほど離れた場所にある鳥見山(とりみやま)。森の斜面を登ると、そこには先人たちによって植えられ、大切に育てられてきた樹齢100年を超える杉や檜(ヒノキ)が静かにそびえ立っていました。森の案内役を務めるのは宇陀の地で林業を営む山守であり、VUTAIの木材調達も担った森庄銘木産業株式会社の取締役専務・森本達郎さんと森本優子さんです。参加者たちはこれから「林業の現実」や「木の100年の物語」を全身で体感し、言葉では言い表せない身体感覚を共有していきます。

長野 「森づくりに正解なし」と考えています。なぜなら、日本全国で地形・気候が異なり、それぞれの環境に合った木の育て方が求められるから。一律に森の価値・あり方を語ることはできないのです。森本さん、この見事な木々はどのように育てられてきたのでしょうか。宇陀の森では、高い密度で苗を植える密植(みっしょく)という伝統手法が取り入れられているんですよね?

森本(達) 仰る通りです。密に木を植え、木々の成長速度を意図的に遅らせながら、長い時間をかけて丁寧に育てています。そうすることで「緻密で、堅く、美しい木目」にすることができます。また、一本一本の状態を見極め、残す木と間引く木を選ぶことも大切です。そのために間伐という作業があります。森全体に光を入れ、山と木を健全に育てるために一部を間引くというものです。全国的な標準では数年から数十年おきに「10本中 3~4 本」を間伐しますが、銘木を産出する宇陀のエリアにおいては「10 本中 2~3 本」しか切りません。歳月をかけて、じっくりと価値ある木を育てる。それが、奈良における林業(吉野林業)の特徴です。

森本(優) いま、皆さんが見上げている木は樹齢100年のもの。植えられたときは、手のひらに乗るような小さな苗でした。このあとに樹齢20年程度の檜の間伐を行なっていただきますが、その前にどの木を切るか見定めていきましょう。木を見るときは必ず「真下から見上げる」ようにしてください。真下から見て、幹の直線性、枝の張り方、光の入り具合を確認していきしょう。山守は他にも、地形の傾斜、土壌の水はけなどを総合的に判断します。将来的にどのような建築材になるかを見据えて選木を行っているのです。

———「どの木が間伐に適しているか」という質問が投げかけられ、参加者は木を見上げながら議論を交わしていきます。「太すぎる?」「曲がっている?」「枝が多い?」など、さまざまな意見が出ました。伐採対象に選ばれたのは、隣接する優良な木と太陽光や養分を取り合っていた木。森本(優)さんの口からは「森を育てることは、未来へ残す木を選び、命の選別を行うこと」だと語られました。

伐倒はノコギリとウィンチを使った昔ながらの手作業で行われました。生木は地中から吸い上げた多くの水分を蓄えており、想像以上に重く硬く、切る際の抵抗が腕に伝わります。参加者はリレー形式でノコギリを引いていきますが、額には汗がにじみ「腕がパンパン」「全然切れない」という声や応援が飛び交いました。木はやがてウィンチに牽引され、メリメリと大きな音を鳴らしながら倒れ込みました。倒れた瞬間、地響きがドスンと身体に伝わり、参加者からはどよめきが聞こえてきました。途方もない歳月をかけて育った木の間伐に立ち会い、中には「言い表せない申し訳なさ」や「人の豊かさのために木を大量消費する葛藤」を感じたと吐露する参加者もいました。

森本(優) 切り株に触れてみてください。地中から吸い上げたばかりの水分でしっとりと濡れ、ほのかに熱を帯び、芳醇な香りが漂ってきます。木を自らの手で切る行為を通して、市場に出れば安価に取引される「木材」が、たった今のいままで呼吸をしていた「生命」であったことを実感していただけたでしょうか。同時に、この間伐材一本を切り倒すためだけに、そして山を守り続けていくために、森林従事者がどれほどのリスク・労力・時間を費やしているか、お分かりいただけたかと思います。大雪の降った日は雪崩の危険がありますし、熊に襲われる可能性もあります。これほどの手間をかけても、条件によっては数千円の価値にしかならないのです。午前中のセッションで語られた「山主にお金が還らず、儲からないため、守り手が減っている森の現実」について改めて考えていただき、そして、次世代へ繋いでいくためにはどうすればいいのかを、この身体感覚を踏まえた上で追求していきましょう。

[ Session3/追求型ワークショップ ] 宇陀の山と木を使い、次世代へ繋いでいくには。

———VUTAIへ戻ってから、追求型ワークショップがスタート。多世代・職能の参加者だけでなく、講演を行なった杉本先生や長野さん、森の案内人を務めてくださった森本さんらの登壇者チームも含めた計9グループ・総勢63名で「宇陀の山と木を次世代に繋ぐために何ができるのか?」というテーマでグループワークを行い、各グループの追求成果を全体で共有しました。感覚的な気づきから合理的な事業施策まで、白熱した議論のなかで多彩なアイデアが生まれました。いよいよ、最終発表に移ります。

▼各チームから生まれた提案

Aチーム:『Forest Time Value』
人が一生涯をかけて、森と親密に関わっていくプログラム。例えば、誕生時に苗木を贈る。就学時は林業体験で森を学ぶ。成人後は「一人一本」の木を購入する。

Bチーム:『教育×医療×実用=森の需要創出』
山を教育や医療(セラピーなど)と連携させる。同時に、公園の遊具などへと木材利用を拡大し、教育・医療・実用の3軸で需要と供給のサイクルを回していく仕組みをつくる。

Cチーム:『一般カリキュラムにウッドロンダリングを!』
国語・算数・理科・社会につづく必修科目として、小学校6年間の教育にウッドロンダリングを導入する。森の生態にはじまり、森や木が経済に行き渡るまでを学ぶカリキュラム。

Dチーム:『世界一高いクリスマスツリーとツリーハウス』
鳥見山の頂上に巨大なクリスマスツリーとツリーハウスを建てるイベント。建設プロセスには子どもたちが参加し、継続的な参加意識・当事者意識を生み出す。式年遷宮のように毎年作り直す年中行事にすることで、木造の技術を継承しつつ、メディアやSNSでの話題性を呼ぶ提案。

Eチーム:『次世代で山を育み、体験をデザインする』
自治体や企業が取得した未管理の森の運営権を次世代に委託し、子どもと若者が中心となって山での体験をデザインする仕組みと文化をつくる。そのなかには植林や間伐を担うことも含まれ、世代を超えて森を継承していく。

Fチーム:『森の当事者になる、山好きへの導き』
山好きを増やす体験型プログラム。森を管理する体験や、枝打ちワークショップや木の個性を活かしてモノに作り替えるクラフト教室を提供し、森や木に触れながらその活路を学べる拠点をつくる。

Gチーム:『木のテーマパーク』
木が川上(森林)から川下(建築)に行き渡るまでの全工程を学べる拠点をつくる。プロの林業人材の育成と一般観光客の誘致を両立させる。切り落とした枝はアップ・サイクルしてさまざまな用途での活用を促す。

Hチーム:『林業休暇 -家でゴロゴロから山でゴロゴロ-』
企業が「山に行く休暇」を制度化。心身を元気にすることができる山に赴き、家でゴロゴロするのではなく、山でゴロゴロして、林業の手伝いをしたり、森で過ごすことで心身の回復を図る。

登壇者チーム:『うだ森ミュージアム 〜KOMOREBI〜』
会員権を持った人々が一つの山を育てていく。そこでは「植林ピック」「草刈リンピック」「枝打リンピック」をはじめ、森の作業を競技化した「森ンピック」を開催。エンターテインメントを通して、人と森の関わり合いを定着させる。森ンピックの最後は皆で間伐をして、森を大切にする感覚を養っていく。

———全チームの発表後「この場にいる全員で、どの案をさらに深く追求し、塗り重ねていきたいか」を選ぶため、スマートフォンを使ったリアルタイム投票が行われました。投票の結果、追求対象に選ばれたのはCチームの『一般カリキュラムにウッドロンダリングを!』。選出されたCチームの案をベースに、会場全体でさらにディスカッションが行われます。参加者からは「森を良くするためには人を呼ぶ必要があるが、強制感を出さないことが肝心」・「招待状を出して楽しく招き入れるのはどうか」・「チェーンソーの資格が取れるような体験があれば、自発的に森へ通い続ける動機になるのでは」といったアイデアが次々と寄せられ、さらなる追求が塗り重ねられていきました。

100年前の過去を見れば、100年後の未来が見える。

———[Session3]の最後では、Cチームの提案と全員での追求に対して、長野さん・杉本先生からコメントが贈られました。また、改めて本シンポジウムの総括の言葉をいただきました。

長野 皆さんが森と木の未来のことを、心から楽しそうに考えて、話し合っている姿に感銘を受けました。全ての提案が素晴らしい!そう思いました。なかでも、ウッドロンダリングはとくに秀逸ですね。2〜3日の林間学校では大切な知識やスキルは身につきませんから、継続的に学べる機会をつくることが肝要だと、私自身も日々痛感しています。ところで、昔の学校は将来の校舎建て替えの資材とするために学校林を育てるという風習がありました。現在も全国で約3,000校が学校林を有しているとされていますが、泣くなく放置されているものも多いのです。例えば、ウッドロンダリングの導入と合わせて学校林を復活させたり、さらには皆で自分たちの通う通学路の木々に樹名板を設置する実習などを行えば、日本が誇る多様な樹種を学べたり、森と木と生きる文化資本を育むことができると感じました。

杉本 数多くの素晴らしいアイデアが出ました。しかし、あえて厳しい指摘をさせていただきます。寂しく感じたのは、今回のテーマである「宇陀の視点」が薄まっていたことです。森の抱える課題というのは、全国一律ではありません。宇陀には宇陀の歴史と林業のカタチがあり、その結果、この地域ならではの素晴らしい歴史的木造建築群が残っています。山と地域の関係性を見つめなければ、いくらアイデアが良くても本質的には結びつきません。宇陀の山から何が生まれるか?宇陀の森をどう繋いでいくか?というローカルファーストの視点こそが価値を生みます。日本の森のロンダリングではなく、宇陀の森をロンダリングする。地域ごとに、山ごとに、木ごとに、発見をしていく。そうしたスタンスを皆で広げていければと思います。
最後にお伝えしたいのは「100年前の過去を見ると、100年後の未来が見える」という言葉。VUTAIの広間に使われている樹齢200年の欅も、先ほど間伐した檜も、遥か昔の先人たちが未来の誰かのために植え、手入れを重ねてきた延長線上にあります。森の時間は人間の寿命を優に超えます。私たちが今日考え、選択し、これから植える木が、100年後の建築と人々の暮らしを支えるのです。

[ Voice ]シンポジウムを終えて 〜参加者と主催者の声〜

印象的だったのは、山でのセッションで森本さんが仰った「自分は250年かけてこの木を育てていく」という言葉でした。自分のことで精一杯になりがちですが、目先の利益ではなく、もっと先の未来を見据えて「人のため、次世代のため」を大切にする姿勢の重要性を再認識しました。そして、山や森に対してこれほどまでに強い関心と熱い思いを持つ人がたくさんいることに驚きと喜びを感じました。この気持ちを森との接点が少ない人たちにどう伝えていくかが、これからの課題だと感じています。目的を共にする仲間づくりを進めていく必要性を強く実感した一日でした。(貝本氏/トリスミ集成材株式会社

私はデンマークの成人教育機関・フォルケホイスコーレに着想を得て、奈良に全寮制の大人の学びの場を提供する活動しています。VUTAIのような「宿泊+学びの場」は非常に魅力的に思えますね。今日は実際に森に入り、自分たちで「どの木を間伐するか」を選んで切る体験をしたことが衝撃でした。作業ではなく、思考プロセスを伴う体験は深い学びを得られます。また、森に人を呼ぶには「楽しさを設計する」ことが不可欠だと改めて感じました。自分の仕事においても、今後のプログラム作りに活かせるヒントを多くいただきました。(奥田氏/奈良フォルケ

皆さんが森の現実を体感し、ワークショップで真剣に未来を考えてくださる姿を見て、私たち自身も大きな活力をいただきました。なかでも「林業休暇」というアイデアは新鮮でしたね。農業や漁業の観光化は進んでいますが、林業×バケーションという発想はまだまだ少ない。非常に可能性を感じる、面白いフレーズでした。今日の出会いとアイデアを、森の守り手として、具体的なアクションへと繋げていきたいです。(森本(達)氏/森庄銘木産業株式会社

私が所属する地域共創事業部は、社会課題の発掘と雇用創出を通じた活力循環をミッションとしています。VUTAIはまさに、人と人が繋がり、新しい共創の可能性が開ける「舞台」だと実感できました。面識のない参加者同士が自然に名刺交換し、議論が白熱していく光景にワクワクしましたね。忘れられないのは、森で木を切ったとき、ドスンと地響きが起こったときのこと。私を含め、それまでおおー!と声を出していた参加者が全員、一瞬言葉を失いましたよね。あの体験・感覚を共有することこそが、有意義な議論を生む土台であって、「共創」であると私は思いました。VUTAIは「一緒に課題解決をしたいときに来る場所」です。そして、ここからまた「新たなプロジェクトが出発していく場所」として、10年後も、20年後も、100年後も続いていくことを願っています。(村上/株式会社類設計室 地域共創事業部

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